「地域CLへの挑戦」内藤監督インタビュー

2018シーズンを無敗で終え、東北リーグ1部初の優勝と「全国地域サッカーチャンピオンズリーグ」(以下:地域CL)への出場権を獲得したブランデュー弘前。JFL昇格に向けた新しい挑戦を前に、チームを率いる内藤就行(なるゆき)監督にインタビュー! リーグ戦の振り返りと地域CLについてのお話をうかがいました。
※本文敬称略

 

内藤就行(なるゆき)監督

1967年11月9日生まれ、奈良県出身。中京大学卒業後、1992年にJリーグ開幕に伴い鹿島アントラーズに入団。1996年には主にDFとして全試合に先発出場し、元日本代表の秋田や相馬らとともに鹿島初のJリーグ年間優勝に貢献。その後FC東京、アビスパ福岡、ヴォルカ鹿児島を経て2003年に現役引退。2004年からサガン鳥栖のユース監督に就任。その後モンテディオ山形のトップチームコーチ(2009年-2011年)、アルビレックス新潟ユースコーチ(2012年)などを経て、2018年よりブランデュー弘前FCの監督に就任。

趣味はサーフィン。

 

 

初年度でのリーグ制覇、目指したのは「90分走れるチーム」

 

−まずはリーグ戦初優勝、おめでとうございます。ブランデューを率いる初年度となった2018シーズンですが、振り返ってみていかがですか?

内藤監督:ありがとうございます。そうですね、東北リーグを全く知らない状況から始まったわけですが、まずは「90分走れるチームにしよう」ということと、自分の経験上、苦しい戦いになったら「サッカー以外の部分」も大事になってくると思っていたので、そこは意識して指導していました。

 

−「サッカー以外の部分」といいますと?

内藤監督:当たり前のことは当たり前にやるというか。挨拶から始まり、練習に対しての準備もそうですが、社会人として当たり前のことをきっちりできるようにならないと、というところからまず始めました。特に、栃木SCからは若い選手も預かっていた(※1)ので、少しでも長くサッカーを続ける「コツ」というか、プロというのはどういうものかを伝える部分も担っていると思っていたので。

※1:2018年2月から栃木SCより4選手が「育成型期限付き移籍」で加入

 

−なるほど。「90分走れるチーム」というのはスタミナ面で、ということでしょうか?

内藤監督:ベースとなる部分すべてですね。最初に彼らの体つきを見たら、貧弱といったらおかしいですけど(笑)。男子のサッカーはまず当たり負けしないことが勝敗に関わってくるので、本当にベースの部分を徹底して鍛えることを目標に置いてやっていました。そのために、前の大学(神戸国際大学)で一緒にやっていたトレーナーも連れてきて。もちろんまだ理想の姿にはほど遠いですけど、シーズン開幕前から継続してやってきましたね。


練習前に選手に声をかける内藤監督

 

−今シーズン出場している選手を見ていると、固まったメンバーというよりは毎試合変わっている印象を受けました。監督の選手起用についての考えをお聞きしてもよろしいですか?

内藤監督:昨シーズンまでのことは全く関係なく、選手を自分の目で見て判断しようと。その基準の中に、こっちが要求した技術はもちろんですが、私生活に繋がるメンタル的な部分も重視してました。しっかり話が聞けるか、自分の意見が言えるか、周りと調和できるか…。自分一人でサッカーはやるものではないし、そういうことも考慮しながら選手選考をしながら毎週毎週のメンバーを決めていく。ただサッカーが上手いから試合に出るのではなく、そこまでのプロセスというか、練習に取り組む姿勢や、気分が乗らないときでも腐らずやれるか、周りにいい影響を与えられるかという目で僕自身が近くで見てきました。

 

−直接サッカーに関わる部分だけではなく、総合的に見てメンバーを決めていったのですね。

内藤監督:これがJリーグみたいに、結果が全てのプロの世界であれば関係ないのかもしれません。アマチュアの世界の中で、将来のプロ入りを目指しながら厳しいシーズンを戦い抜くためには、グラウンド以外のところでも選手を見る必要があるのかなと。

 

−今シーズンの特徴として、結果だけを見ると点差のついたゲームが多い印象ですが、拮抗した試合展開の中、後半立て続けにゴールが生まれて突き放す試合も目立ちました。この後半の強さの要因はなんでしょうか?

内藤監督:サッカーは90分を通して戦って初めて勝ち点を得られるスポーツです。厳しいフィジカルトレーニングをやってきたことで、前半はゼロに抑えられたとしても、後半で絶対に点を取れるという自信が選手の中にもあったと思います。選手が自分の殻を破って、もう少し走れるようになり、それが自信に繋がる。後半、相手より走れるようになったところでゴールが生まれるというのは当然の結果だと思いますし、この先、相手チームが我々と同じくらい走れたらどうするかも考えなきゃいけない。次の戦い(地域CL)では特にそうですよね。そういう意味で、シーズン後半にサイドからの攻撃など得点のバリエーションが増えたのはよかったですね。

 

 

地域CLはリーグ戦とは全く違った試合展開になる

 

−その地域CL(※2)についてもうかがえればと思います。「世界一過酷なリーグ」とも呼ばれる大変険しい道のりですが、JFL昇格をかけての戦いです。まずは1次ラウンドですが、このリーグについての印象はいかがですか?

※2:リーグ戦優勝に伴い、ブランデューは地域CLの出場権を獲得。1次、決勝ラウンドを勝ち抜き、上位2チームがJFLへの昇格の権利を得る。詳しくはこちら

 

内藤監督:チームとしてこれまでなかなか経験をしたことのないレベルのリーグだと思います。1つ1つのプレーの精度であったり、プレッシャーの早さだったり、余裕を持ってボールに触れられる時間が少なくなる。リーグ戦とは全く違った試合展開になると思います。ブランデューは地域柄というか、関東のクラブに比べれば、なかなかこのレベルのチームと試合をする機会が少ないです。そういった状況の中で、みんなでハードワークして、しっかり守備をして、そこから攻め上がる。「堅守速攻」ではないですが、自然とそういうスタイルになってくると思います。

その中で結果を出すことはもちろん簡単なことではないですし、自分たちより格上のチームとも対戦することになると思います。勝ち点も僅差のギリギリの戦いになるかもしれませんが、せっかく掴んだチャンスですので、何とかできるだけのことをして、JFL昇格を目指します。

 

−厳しい戦いになることが想定される中で、選手にはどのようなことを求めますか?

内藤監督:どれだけ我慢してプレーできるかだと思います。粘り強くプレーできる選手、波のない選手。そのために、普段から人と人との繋がりを大切にしてきた訳ですが、幸いにも、シーズンを追うごとに選手たちが試合の中で声をかけあいながら、自分たちで考えてプレーする流れができてきました。そういう意味では、東北リーグの後半戦はベンチで見ていられる試合も多くなりましたね。

今回、東北リーグでは初の優勝となったわけですが、その経験ができたのはよかったと思います。僕自身も鹿島(アントラーズ)時代に色々な優勝をさせてもらって、そうしたら次はもっと上にいきたいという意欲がわき、色んな人に対しての感謝の気持ちもわいてきました。選手にもそういう思いをさせてあげたいと思っていた中で、こうして一つ結果が出たので。

 

−監督のそういった理念は選手時代に生まれたのですね。

内藤監督:僕はそんなに上手い選手ではなかったので、ひたむきにやる、コツコツやることに徹してきました。1つのミスが命取りになるという世界を経験してきたので、それこそ先ほど言った「サッカー以外の部分」を大事にして、きっちりやりきる、準備をするということ。チームとしての戦術はありますが、自分が判断したのであればどんどんチャレンジすること、チームのために何ができるかを考え、判断する。それはサッカーだけではなく、やっぱり私生活にも繋がっていきますよね。

 

−当時の鹿島アントラーズといえば、ジーコやジョルジーニョ、アルシンドやレオナルドなど錚々たるプレーヤーのいる時代でした。外国人選手から培われたものも多いのでしょうか。

内藤監督:尊敬する選手がとても多かったです。ジーコがプロとはどういうものかを伝えてくれて、当時一緒にやっていたサントスというプレーヤーがそれを身をもって僕らに教えてくれた。普段の生活でもピッチの上でも、本物のプロというものを見ました。

 

 

弘前を「第2の故郷」に

 

−少し余談ですが、弘前での暮らしについてはいかがですか?

内藤監督:2月に来たのですが、辺り一面が真っ白でした(笑)。雪国の大変さを思い知りましたし、寒さも違いますよね。でも春になると桜がめっちゃ綺麗で、四季の移り変わりが美しいです。夏はねぷたまつりにも参加させてもらって。人も優しく、とても充実しています。

私は奈良出身ですけど、プロとはどういうことかを教えてもらった鹿島には、今でも「鹿島に帰る」という気持ちで第2の故郷だと思っていますし、当然弘前も自分の中でそういう風になればいいなと思っています。ただそのためには、ここでやらなきゃいけないことがまだたくさんあって、皆さんに認めてもらえるようにならないといけない。また、鹿島で教えてもらったことを次の世代に還元することも自分の義務だと思ってますし、機会があれば子ども達にもサッカーの楽しさを伝えていきたいと思っています。

 

−今後、ブランデュー弘前というクラブチームをどのようにしたいなどの目標はありますか?

内藤監督:クラブとしての目標はもちろんJリーグですけど、弘前という街がサッカーを通したコミュニティの場になればいいなと。子どもからお年寄りまでがスタジアムに来て、次の日なんかは「昨日ブランデュー勝ってよかったね」みたいな会話が生まれる。そういう場所がスタジアムであったら嬉しいなと思っています。そこにたどり着くにはまだまだですけど、このチームのために自分ができることを微力ながらやっていきたいと思いますし、その夢をのせてグラウンドでできるのは選手しかいないので、サポーターの皆さんにも後押ししてもらえたら嬉しいです。

 

−ありがとうございました。

 

 

↓他のWEB企画記事はこちらから↓